太陽が顔を見せると同時に
北の地平から次々と雲が這い上がって来た
燎原を焼く野火の煙もかくのごとくか
孤独な散歩者の一刻の内にも頭上を覆い尽くそうとした
『孤独な散歩者の夢想』か
あれはルソーだった
文庫を買う時
書店主が嫌な笑いを目と頬に浮かべたのを今でも覚えている
「若造が」とでも思ったのだろう
確かに僕は若造だった
遠くでハンドマイクが叫んだ
「シュプレヒコール!」
「おう!」
僕は気恥ずかしかった
場違いの徒党の中に迷い込んだ者のように
あの本はどこへ行っただろう
雲に引かれ北風に圧されて
僕はおたおたと歩を進める
こうして歩けるうちは大丈夫だ
あと二十年
ウチの家系は比較的長生きだから
百の手前くらいまでは生き
さらばえるだろうか
どれ
この国が再び敗残の地となる日を
この目で見てやろうか
*年末ご多忙の砌、コメントをいただくのは心苦しく、コメント欄を閉鎖させていただいています