雨の日の翌朝は濃い霧におおわれる
十五メートル先がもうさだかではなくなる
きょうも一日暑くなるのかな
新聞を取りに下りると
色鮮やかなブラックベリーが出迎えた
「お前、もうちっと種を小さく出来ないのかね」
「ワシゃあんたに食べられたいなんて思わん」
言えてる
完熟して地面に落ちれば
いくらでも殖えるとんでもない奴
「でもな、地面に落ちる寸前が甘いもな、俺知ってるぞ
真っ黒なのを絞って煮詰めてやる」
「ちょっ、知ってやがる」
「観念して早く真っ黒になれ」
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西坂の左手は谷になっている
元々は棚田にでもしていたのか
池の上まで六段になっている
ここへ越して来て十年
ここで作物が生っているのをみたことがない
こういう「田」も減反では役に立つのかねぇ
放置されて草茫々なのを見かねて
毎年ボクが草刈機を入れて来た
持ち主の議員さんに聞いたら
自由に耕して構わないと言う
なら
「水路を整備してさ
急流を作って発電機をまわすか」
と言ったら
女房が「それはダメだよ」と言う
花を植えても作物を作ってもいいけど
棚田が「田んぼ」で無くなってはアカンいうことらしい
日当たりが悪くて
大豆を撒いてもよう生らない
ビール一回飲んでおしまいになる
日当たりをよくするには
この「田」とウチの西坂の間に生えている木を伐らねばならない
木を伐るのは好きじゃない
「俺たちの幸せのために死んでくれ」
と言うようなものだもね
チェーンソーを入れる時はいつも木に謝るよ
今も悩んでいるんだよ
木を犠牲にして何の僅かばかりの作物か
やっぱり
水路を掘りなおした方がいいんじゃないか
ギボシの咲いた谷間の棚田を歩きながら悩んでいる
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