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Channel: KANTO's パン焼き人は荒です(^^♪
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春は馬車に乗って

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庭のシンボルだったくぬぎの木が伐り倒されてから三週間になる
倒された木よりは二回りほども大きな空間が残された
鳥たちや小さな獣たちはそれぞれに奥まった森の木々に退いたが
人の心はまだその木にとどまり続けようとしている

しかし
その新しい空間こそが木々や草々に僥倖をもたらしたに違いない

イメージ 1

辛夷が咲き

イメージ 2

三椏の花がほころび始めた

イメージ 3

ハナダイコンが咲き

イメージ 4

カタクリにも蕾がつき始めた
 
イメージ 5

イワウチワは小さな丸いつぼみを精いっぱいもたげて
「もうすぐ」とつぶやいている

***

春はどこから来るのかと童謡にある
もはや旧い作家となってしまった横光利一は
春は馬車に乗って』やって来たと書いた

死の床にある妻の看病に疲れた男は
ついにこの先は妻の看病だけをしようと決意する

長い冬がやがて春になろうとする頃
岬をめぐって赤いスィトピーの花束が届けられる
妻はやせ細った両の腕に花束を抱きしめて目をつぶる
男がどうなったかはわからない

ほんの15分もあれば読み切れるほどの掌編小説である
確か新潮文庫にあった筈だが
もうきっと絶版になっているかもしれない

しかし「青空文庫」がある
丹念に文字を拾ってくれていることに感謝している





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